【判決文(一部抜粋)】
SIDSの定義から明らかなように、死亡状況及び剖検によってもその乳幼児の死因が不詳である場合にSIDSと診断されることになるのである。
したがって、乳幼児の死因が窒息死であるかSIDSであるかが問題となる場合には、死因が窒息死であると認められるか否かの検討が先行し、窒息死であると認められず死因が不詳である時にSIDSと診断されることがあるにすぎないのであって、死因は窒息死かSIDSかという二者択一的な検討をすべきではないと考えるのが相当である。
また、証拠によれば、乳幼児の死因が窒息死と認められるかSIDSとされるかの判断は、SIDSが隠れ蓑になって責任を負うべきものが責任を逃れたり、本来責任がないのに窒息死と認定されて責任を負うものが出てくるなど社会的な影響が大きいこと、剖検のみでは窒息死とSIDS双方の所見が認められ、剖検のみでは死因を決められないことがあることが認められる。
そうすると、死因が窒息死であると認められるか否かを、剖検のみならず、死亡状況やその他の事情も考慮した上で慎重に判断されるべきことになる。
【死亡状況】
被告森田は愛也加をうつぶせに寝かせたこと、愛也加はうつぶせに寝かせられるまで長時間泣き続けていたこと、愛也加はまだ寝返りをうつことができなかったことを認める。
愛也加が死亡した直後にチアノーゼが確認されていること、また、証拠(被告森田)によれば、愛也加の布団は姉が3年ほど使用したもので柔らかくなっていることが認められ、その布団は愛也加を寝かせた場合ある程度沈み込むものであったと推認できる。
これらの事情を考慮すると、うつぶせに寝かせられた愛也加は、その顔が沈み込んだことにより鼻口が閉塞し、これによって窒息死したと推認できる。
愛也加はうつぶせに寝かせられるまで長時間泣いてたこと、自宅でうつぶせ寝にされた経験がないこと、布団は余り固さがないこと、愛也加は寝返りができなかったことを考慮すると、被告森田が布団の上に愛也加をうつぶせに寝かせた時点で、愛也加に回避行動をとるだけの能力があったと認めることはできない。
愛也加の死因は窒息死と認めることができる。
前記認定事実及び証拠(被告森田)によれば、被告森田は、乳幼児をうつぶせ寝にすることについての危険性、愛也加が泣き続けていた等の愛也加の状況及び愛也加を寝かせる布団の状態を認識しながら、布団の上に愛也加をうつぶせ寝にさせたのであるから、愛也加が窒息死等により生命に危険のある状態に陥らないように、うつぶせ寝にした愛也加の動静を注視する義務があると言うべきである。
そして、前記認定事実及び証拠(被告森田)によれば、被告森田は本件保育園の保育室にあるベッドに愛也加をうつぶせに寝かせたこと、お祈りのときは被告森田は保育室を出た廊下の位置にいたこと、被告森田は愛也加の顔が見えない位置にいて愛也加が窒息しないようにその動静を確認することはできなかったことが認められる。
そうすると、被告森田は、愛也加を寝かせて保育室を出て以降、愛也加の動静を常に注視していたと認めることはできない。
被告森田はうつぶせ寝にした愛也加から目を離すべきではないのにそれを怠ったと認められるから、被告森田に過失があったと言うべきである。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告森田の過失行為によって、愛也加及び原告らに生じた損害は以下のとおりである。
【死因の判断】
「保育士や園には寝かせた後の女児の様子をよく見ていなかった過失がある」
「保育士がうつぶせに寝かせ、目を離したため窒息死した」
「うつぶせで寝かされ、顔が布団に沈み込んで窒息死した」
「解剖結果だけでなく、死亡状況などの事情を考慮した上で慎重に判断されるべき」
「保育士が仰向けに寝かせたと報告したのを前提に(解剖医がSIDSと)判断した可能性があり、信用性は高いといえない」
「SIDSが隠れ蓑(みの)になって責任逃れしたり、本来は責任がないのに窒息死と認定されたりすると、社会的影響が大きい」
【結論】
被告森田は、愛也加から目を離した過失により、原告らに対し、損害額について不法行為責任を負うことになる。
民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行の宣言につき同法59条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
【主文】
被告らは、各自、原告山根に対して金円および、これに対する平成9年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、これを5分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
福岡地方裁判所/第一民事部・裁判長裁判官-高野 裕・裁判官-山本 正道
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