未来を失くした天使
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愛也加(あやか)の最後は保育園のベッドでした。

幼くして未来を失くした、私の大切な天使…
乳幼児突然死症候群(SIDS)と窒息死(事故)の境界線…

その真実を解き明かすために闘った記録。

平成18年5月26日 福岡高等裁判所 (損害賠償請求控訴事件 - 判決)

判 決 - 主 文 (愛也加 - 勝訴)

本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。



判決文 平成18年5月26日判決言渡 / 口頭弁論終結の日:平成17年6月8日


控訴人 長崎県
社会福祉法人光の子福祉会:以下「控訴人福祉会」
同代表理事(省 略)

控訴人 (省 略) 以下 「 控訴人(略) 保育士 」

上記両名訴訟代理人弁護士 (省 略)

被控訴人 長崎県佐世保市
父親

被控訴人 同所
母親

上記両名訴訟代理人弁護士 (省 略)


主 文 1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。



事実及び理由

第1 当事者の求める裁判

1 控訴人ら

(1)原裁判中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2 被控訴人ら

主文と同旨

第2 事案の概要

1 本件は、被控訴人らが、控訴人福祉会が設置経営する保育園にその二女愛也加の保育を委託していたところ、愛也加が入園14日目に上記保育園で保育中に急死したことから、被控訴人らが、愛也加は、上記保育園の保母(当時の名称。現在は「保育士」。以下「保母」という。である控訴人保育士の過失により、布団類で鼻口が閉塞されたことにより窒息死したものであると して、債務不履行(控訴人福祉会について)ないし不法行為(控訴人保育士及びその使用者である控訴人福祉会について)に基づき、損害賠償を求めたのに対し、控訴人らが、愛也加の死因は窒息死ではなく、原因不詳の乳幼児に突然の死をもたらした症候群による病死であり、控訴人保育士には被控訴人らの主張の過失は存しないと主張して争った事案である。

 原判決は、控訴人保育士が愛也加を保育園備付けのサークルベッドでうつぶせの体勢にした後、他の園児の世話のため、そばを離れていた間に、愛也加の顔面がベッドに敷かれていたマットに沈み込み、鼻口が本件マットにより閉塞された結果、愛也加が窒息死したものであり、控訴人保育士には、うつぶせの体勢にした愛也加が窒息等により生命に危険のある状態に陥らないように、その動静を常に注視すべき注意義務が存するのに、これを怠り、愛也加から目を離した過失が存するとして、被控訴人らの請求を一部認容した。

そこで、控訴人らが原判決の認定、判断を不服として控訴したものである。

 本件事案の概要は、後記2及び3のとおり、当審における当事者の主張を付加するほかは、
原判決の「事実及び理由」,「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

第3 当裁判所の判断

(1)前記の当事者間に争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。


ア 愛也加は、本件保育園に入園後、零歳児クラスであるすみれ組に編入された。当時、すみれ組の担任保母は、A(主任保母)、控訴人保育士、B、C、D の5名であり、他に常勤の看護師がいた。

 愛也加は、午前9時ころ、被控訴人裕二に連れられて本件保育園に登園し、B保母が愛也加を預かった。 愛也加は、同日起床後から登園するまで、風邪の症状などの体調の問題はなく機嫌も良かったが、B保母が預かったところで大きく泣き出し、その後、控訴人保育士が預かって抱いてからも泣きやまず、ぐずり泣きをしていた。

 控訴人保育士は、午前9時45分ころ、愛也加にスプーンで2ないし3杯の重湯を与えた。

 すみれ組は、午前10時ころから、月齢の高い園児には外遊びを、低い園児には部屋遊びをさせており、愛也加も、午前10時ころから、室内で、控訴人保育士が抱き上げてあやしたり、コンビラックに乗せるなどして遊ばせたが、ぐずり泣きを続けていた。

なお、同日、すみれ組は、愛也加を含めて19名の園児が登園していた が、主任保母のA と看護師が休んでいたため、残る4名の保母が19名の園児の保育業務を担当していた。

イ すみれ組は、園児のおむつ換えやトイレを済ませた後、午前11時前ころから給食を与えているところ、控訴人保育士は、午前10時35分ころから保育室において、他の担任保母と手分けしておむつ換えを始めた。

 保育室は、概ね正方形の部屋であり、廊下と、その反対側の配膳室及びトイレに挟まれた位置関係にあり、廊下側にはドア等はなく開放されている。保育室には本件保育園備付けのベッドが9床設置されており、廊下側から見て左の壁側に、壁から通路スペースを開けた上、ベッド6床が縦に3床ずつ2列に並べて設置され、廊下側から見て右の隣室との間仕切りがガラス戸側にたてに3床並べて設置されており、保育室の中央部は配膳室や廊下へ行き来できる広いスペースになっている。

控訴人保育士は、5人ほどの園児のおむつ換えを行い、最後に愛也加のおむつ換えを行ったが、愛也加は、このときもぐずり泣きをしていた。愛也加は、月齢が低いため、まだ給食を与えられていなかった。

控訴人保育士は、午前10時40分ころ、おむつ換えが終わった愛也加を、保育室に設置されているベッド(上記壁側の6床の内、通路スペース側の3床の中央のベッド)上にうつぶせの体勢で寝かせ、足元に布団を掛けた。

当時、愛也加はすでに首がすわっており、控訴人保育士が上記のとおり寝かせた際、うつぶせの体勢で首を持ち上げていた。なお、控訴人保育士は、愛也加を、入園後、機嫌がよいときにうつぶせの体勢にして遊ばせたことがあるが、その際は、愛也加から目を離さずにおり、うつぶせの体勢にしていた時間も1分位であった。また、上記ベッドには、本件マットが敷かれているところ、本件マットは、被控訴人らが持参したもので、愛也加の姉が3年間使用した、二つ折りのものであり、袋状のシーツがかぶせられていた。

控訴人保育士は、上記のとおり、愛也加をベッドでうつぶせの体勢にした後、すみれ組の他の園児の給食の世話をするため、保育室の廊下側に給食のため準備されたテーブルの方に離れた。このとき、すでに、給食の1品目のうどんの配膳が終わっており、給食を食べる園児(保育室のベッドにいる9名を除く10名)もテーブルに揃っていた。控訴人保育士が進行役をして、食事前に行う短い歌とお祈りを済ませ、園児らが食事を始めたが、園児の1人がうどんをこぼしたので、控訴人保育士は、保育室の廊下側とは反対側にある上記配膳室にふきんを取りに行き、こぼしたうどんをふき取った後、ふきんを洗うために、再び配膳室に行った。Cは、上記の歌が終わった後、午前10時45分ころ、おむつチェックするため、愛也加のベッドに近づき、壁側の通路スペースに立って、ベッドの柵を下ろそうとしたところ、愛也加が両目を閉じて顔面蒼白であり、死んでいるのではないかと異常を感じ、その場で「先生」と声を発して他の担任保母を呼んだが、聞こえないようであったところ、配膳室でふきんを洗って保育室中央部のスペースに出てきた控訴人保育士を見かけたので、控訴人保育士のそばまで行って、愛也加の様子がおかしいので見てくださいと伝えた。これを聞いた控訴人保育士は愛也加のベッドに歩み寄り、柵を下ろして、愛也加を抱き上げ他ところ、愛也加が顔面蒼白であり、力無く両腕をだらっと垂らしていたことから、愛也加を抱いたまま、慌てて保育室を出て行った。 控訴人保育士は、本件保育園の玄関ロビーで接客中の控訴人福祉会理事長を認め、声をかけたところ、同理事長から直ぐに病院に行くように指示されたので、愛也加を抱き、上履きのまま走って、本件保育園の隣の○○医院に連れて行った。

ウ ○○医師は、午前10時55分ころ、控訴人保育士が愛也加を抱いて、「先生助けてください。」と叫ぶように言いながら取り乱した様子で来院したので、直ちに愛也加の状態を確認したところ、愛也加は、顔面蒼白、全身筋弛緩の状態で、呼吸をしておらず、心音を聴取することができなかった。また、両鼻腔からやや粘着性の液状乳白色の胃内容物と思われる物が吐出しており、上口唇はやや紫色がかったように見え、体温は平熱に感じられた。○○医師は、看護師に救急車の出動要請をさせるとともに、診察室で、直ちに心臓マッサージ(非開胸)を行い、看護師が人工呼吸(マウスツーマウス)をしたが、心拍、呼吸ともに戻らないので、午前10時58分ころ手術室に移り、愛也加に酸素マスクをかけ、心臓マッサージを施し、さらに、到着した救急隊員と交替で心臓マッサージをしたが、自発呼吸、心拍ともに戻らなかった。 そこで、午前11時05分ころ、愛也加に気管挿管を行い、酸素を送気しながら心臓マッサージを継続したが、蘇生せず、午前11時30分に愛也加の死亡を確認し、午前11時40分に気管挿管を抜去した。

 なお、上記救急隊員の出動記録によると、愛也加の顔色にチアノーゼを認めた旨の記載がある。

エ その後、愛也加の死亡について○○医院から警察に変死事例として報告がされたので、警察が愛也加の死亡について関係者に事情聴取をした。

 長崎県早岐警察署警察官であるEは、控訴人保育士から愛也加の死亡状況について事情聴取をしたところ、控訴人保育士は、警察官Eに対し、愛也加をベッドに寝かせたときの状況について、身振りを交えて愛也加を仰向けに寝かせた旨説明した。

オ 被控訴人らは、警察や親族の助言を受けて、愛也加の解剖を承諾し、被控訴人ゆかりが愛也加を抱いて、自動車で長崎大学に赴き、午後3時15分から午後4時50分まで、長崎大学医学部法医解剖室において、F教授が執刀して愛也加の承諾解剖が行われた。

 F教授が、承諾解剖に立ち会った刑事調査官に対し、愛也加の死亡時の状況等を口頭で質問したところ、本件異常発見時の愛也加の姿勢は仰臥位であり、生前の健康状態は風邪気味であり、救急蘇生術が行われたとの回答を得た。

カ 控訴人福祉会の理事長らは、愛也加の死後、何日かしてから、職員室にすみれ組担任の保母らを集め、愛也加の死亡時の状況を聴取した。その際、Cは自分が最初にベッド上の愛也加の異常を発見して、控訴人保育士にその旨告げたことを報告したところ、控訴人福祉会理事長は、職員に対し、愛也加の死亡状況については、口外しないように、また、同僚の保母にも口外しないように指示した。

キ 被控訴人ゆかりは、愛也加の死亡当日、控訴人福祉会理事長から、愛也加の死亡時の状況について、愛也加がすやすや眠っており、異常に気が付かなかった旨の説明を受けた。被控訴人らは平成9年4月28日、本件保育園に赴いて、愛也加の死亡当日のことを教えて欲しいと申し入れたところ、本件保育園園長は、担当の保母らを集めて事情を聴取してから、後日連絡をすると回答した。その後、回答がなかったので、被控訴人ゆかりが、同年5月2日に本件保育園に電話をしたところ、夕刻になって本件保育園園長から電話があり、愛也加の死亡当日の状況について、愛也加が朝からぐずり泣きをし、午前10時30分ころのおむつ換えの際も泣いていたこと、愛也加のおむつ換えが終わって、次々と他の園児のおむつ換えをしていくうちに、愛也加の泣き声が止ったので見に行ったところ、様子がおかしいことに気づいたことの説明があり、被控訴人ゆかりが、最後に愛也加を見ていた保母と、愛也加の寝かせ方について尋ねたところ、最後に愛也加を見ていたのは控訴人保育士であり、愛也加はうつぶせ寝であったとの回答であった。そこで、被控訴人ゆかりが、控訴人保育士と電話を替わるよう求めたところ、市からとめられているとして断られた。

 なお、被控訴人ゆかりは、うつぶせ寝の場合の窒息の危険性を懸念していたことから、愛也加もその姉も、うつぶせに寝かせたことはなかった。

(1)愛也加の死亡に至る経緯について

 被控訴人らは、愛也加はうつぶせの体勢で寝かせられ、その後、フェイスダウンの状態となって窒息死したと主張するのに対し、控訴人らは、愛也加を腹ばいにして寝かせたのであり、本件異常発見時、愛也加は左頬を下にしていたもので、フェイスダウンの状態にあったと認めることはできないと主張する。

ア 前記認定した事実によると、控訴人保育士は、午前10時40分ころ、おむつ換えが終わった愛也加を保育室のベッドでうつぶせの体勢で寝かせ、足元に布団を掛けたが、その際、愛也加は首を持ち上げていたこと、控訴人保育士は、前示のとおり、愛也加をベッドでうつぶせの体勢にした後、すみれ組の他の園児の給食の世話をするため、愛也加のベッドを離れたこと、控訴人保育士が進行役をして食事前に行う短い歌とお祈りを済ませ、園児らが食事を始めたが、園児が給食をこぼしたため、控訴人保育士が配膳室からふきんを取ってきて、これをふき取った後、ふきんを洗うために、再び配膳室に行ったこと、Cは、上記歌が終わった後、おむつをチェックするため、午前10時45分ころ、愛也加のベッドの柵を下ろそうとしたところ、愛也加が両目を閉じて顔面蒼白であり、死んでいるのではないかと異常を感じ、他の担任保母を呼んだ後、ふきんを洗って配膳室から出てきた控訴人保育士を見かけたので、愛也加の様子がおかしいので見て欲しい旨を伝えたこと、そこで、控訴人保育士は、愛也加のベッドに歩み寄り、愛也加を抱き上げたところ、顔面蒼白で、力無く両腕をだらっと垂らしていたことから、愛也加を抱いたまま、慌てて保育室を出て行ったこと、控訴人保育士は、本件保育園の玄関ロビーで接客中であった控訴人福祉会理事長から病院に行くよう指示されたので、愛也加を抱き、午前10時55分ころ、○○医院に連れて行ったこと、○○医師が直ちに愛也加の状態を確認したところ、愛也加は、顔面蒼白、全身筋弛緩の状態で、呼吸をしておらず、心音を聴取することはできない状態であったこと、そこで、○○医師は、救急車の出動要請をするとともに、心臓マッサージ(非開胸)、人工呼吸(マウスツーマウス)をしたが、心拍、呼吸ともに戻らないので、午前10時58分ころ、手術室に移り、酸素マスクをかけて心臓マッサージを施し、さらに、到着した救急隊員と交替で心臓マッサージをしたが、自発呼吸、心拍ともに戻らなかったこと、午前11時05分ころ、愛也加に気管挿管を行い、酸素を送気しながら心臓マッサージを継続したが、蘇生せず、午前11時30分に愛也加の死亡を確認したことが認められる。

 そうすると、控訴人保育士が愛也加をうつぶせの体勢で寝かせ、その際、愛也加は首を持ち上げていたが、その約5分後に、Cが愛也加がベッド上で両目を閉じて顔面蒼白な状態であるのを発見し、死んでいるのではないかという異常を感じて、控訴人保育士に愛也加の異常を知らせ、控訴人保育士が愛也加をベッドから抱き上げたところ、愛也加は、顔面蒼白で、両腕を力無くだらっと垂らしていたことから、愛也加を抱いて○○医院に急行し、○○医師の治療を受けたが、結局は、蘇生することなく、死亡が確認されたというのであり、また、愛也加については、後記認定のとおり、窒息死を認める解剖所見が存することをかんがみると、愛也加は、うつぶせの体勢で寝かせられた後、窒息死するに至ったと認めるのが相当である。

イ この点、控訴人らは、控訴人保育士は、愛也加をうつぶせに寝かせたことはなく、腹ばいにさせたのであり、仮にうつぶせに寝かせたとしても、愛也加は既に首がすわっており、顔面を持ち上げ左右に動かすことができたのであるし、本件異常発見時、愛也加は左頬を下にしていたのであり、フェイスダウンの状態にあったと認めることはできないと主張し、控訴人保育士は、本件異常発見時、愛也加は左頬を下にして顔面を右(壁側)に向けており、目、鼻及び口が見えており、顔の正面部が寝具にのめり込んでいる状態ではなかった旨供述及び陳述(乙13、原審における控訴人保育士)するところ、Cも、本件異常発見時、愛也加の顔全体がはっきり見え、両目を閉じており、鼻及び口も見えていたから、窒息する原因はなかった旨、控訴人保育士の上記供述等に沿う証言等をする。

 しかしながら、本件異常発見時の状況等について、控訴人らは、原審答弁書において、午前10時35分ころから、園児のおむつ換えが始まり、控訴人保育士が愛也加のおむつ換えを済ませて、ベッドに腹ばいにさせたところ、愛也加は腹ばいの状態で頭を持ち上げてぐずり泣きをしていたが、午前10時45分ころ、ぐずり泣きが止んだので控訴人保育士がベッドを覗くと、愛也加は左頬を下にして寝ている様子であったが、だらっとした感じで顔色が悪く、息をしていなかった旨主張し、本件保育園園長も、平成9年5月2日、控訴人ゆかりに対し、愛也加の死亡時の状況について、上記答弁書記載と同旨の経緯の説明をしたが、控訴人保育士は、その陳述書(乙13)では、愛也加をベッドに腹ばいに寝かせた後、給食の準備をし、園児が歌とお祈りをして食事を始めようとしたとき、愛也加のぐずり泣きが止まっているのに気づき、寝たのかなと思い愛也加のベッドに行った旨、さらに原審における本人尋問では、愛也加をベッドに腹ばいにさせた後、愛也加から離れて、給食を食べる園児たちの歌とお祈りを済ませ、直ぐに腹ばいにしていた愛也加の体勢を仰向けに換えるためにベッドに行った、愛也加を腹ばいにしてからは他の園児のおむつ換えはしていない、腹ばいにして、愛也加が頭を持ち上げる様子をしばらく見た後、愛也加の頬を少し横向きにしてベッドから離れたなどと供述し、本件異常発見時の状況、特に、愛也加から離れた際の愛也加の頭部の姿勢、離れている間の控訴人保育士の行動、再び愛也加のベッドに戻った理由について、説明内容をその度毎に変遷させている。そして、当審における控訴人保育士の本人尋問では、愛也加をベッドに腹ばいにさせ、ベッドを離れる際に、愛也加の背中をとんとんとしたところ、愛也加は自然に頭の位置を横にした、それから、給食を食べる園児の歌とお祈りの進行役を済ませ、給食のうどんを食べさせ始めたところ、園児の1人がうどんをこぼしたので、配膳室にふきんを取りに行って戻って、こぼしたうどんを拭いて再び配膳室でふきんを洗った後、配膳室を出て園児の給食の世話に戻ろうとしたところ保育室中央部のスペースのところで、Cに会い、その後、愛也加の様子を見るため、ベッドに行った旨供述し、再度、従前の供述等の内容と異なる供述をするに至った上、愛也加のベッドに行った経緯についても、Cから何と言われたかはっきり覚えていない、愛也加の様子がおかしいから見てくださいといわれた気もする、愛也加の泣き声が止んだからベッドに行ったのか、Cに何か言われたからベッドに行ったのか覚えていないが、今は、Cに言われたからではないかと思うなどと、愛也加をベッドに寝かしてから愛也加の異常を発見するに至るまでの経緯について、曖昧な内容の供述をしている。

また、控訴人保育士は、当審に係属後、Cと面談するうちに記憶が戻ったものであるとするが、原審当時からの供述等の変遷、当審における控訴人保育士の供述内容が極めて曖昧であることについて、合理的な理由が存するとする事由は存しない。加えて、愛也加の死亡について事情聴取をしたE警察官は、控訴人保育士が、愛也加をベッドに寝かせたときの状況について、愛也加を仰向けに寝かせた旨を仕草を交えて説明したので、その旨上司に報告したのであり、控訴人保育士から愛也加を「腹ばいにした。」と言う言葉は全く聞いていない旨証言しており、E警察官は愛也加の死亡が不審死であることから、その死亡に関する事件性の有無を捜査する目的で前記事情を聴取した経緯が存する上、E警察官のこの点に関する供述は、愛也加の死亡に関する事情を聴取するに際しての経験に基づくもので、その供述内容も具体的で、一貫しており、さらに、F教授が、承諾解剖に立ち会った刑事調査官に愛也加の本件異常発見時の状況について質問したところ、仰臥位であったとの回答を得たというのであり、かかる事実と合わせかんがみると、E警察官の前記供述は十分信を措くことができるところであり、本件異常発見時、愛也加が左頬を下にしており、目、鼻及び口が見えていたとする控訴人保育士の上記供述部分は、たやすく採用することはできない。

 また、控訴人らは、Cの存在や本件異常発見時の状況について前示のとおり異なる主張や供述を繰り返し、当審において、Cが第一発見者であるとして、原審と異なる供述や事実に基づく主張をするに及んだもので、Cも、本件異常発見時、愛也加の顔全体がはっきり見え、両目を閉じており、鼻や口も見えた旨の証言等をするが、その際、愛也加がうつぶせの体勢にあったのか、寝具の状況はどうであったのか、愛也加のベッドに行くまでの行動や愛也加のベッドに行った経緯等については、何ら記憶しておらず、Cが、新任保母として勤務中、担任クラスの園児が保育中に死亡するに至るという出来事に遭遇し、記憶が混乱したとする状況がうかがわれないではないが、Cの証言等の内容は、きわめて断片的であり、具体性がなく、結局は、愛也加が窒息するような原因がなかった旨を供述することであり、たやすく採用することはできない。

 したがって、本件異常発見時、愛也加が左頬を下にしており、鼻口は閉塞していなかったとする控訴人らの主張は、採用することができない。

ウ また、控訴人保育士は、愛也加を「うつぶせ」ではなく「腹ばい」に寝かせたと供述するが、控訴人保育士が供述する「腹ばい」が具体的にどのような体勢であり、被控訴人らが主張する「うつぶせ」とどのような相違があるのかは明らかではない。控訴人保育士が愛也加を左頬を下にして寝かせたとする具体的な証拠はないし(甲7によるも、愛也加を寝かせた具体的な体勢は明らかではない。)、控訴人保育士の愛也加の死亡に関する警察官に対する事情聴取に照らしても、控訴人保育士が愛也加を「腹ばい」にして寝かせた旨を供述していたと認め難いことは前示のとおりである。そうすると、控訴人保育士が愛也加を腹ばいの状態で寝かせたとする控訴人らの主張は採用できない。

エ また、控訴人らは、愛也加はいわゆるフェイスダったことはなく窒息死する原因がないと主張する。確かに、愛也加は少なくともうつぶせの体勢で寝かされたが、本件異常発見時にフェイスダウンの状態であったことを認める具体的な証拠はない。しかしながら、控訴人保育士は、愛也加をベッドに寝かせた際の状況について、ことさらに事実と異なることを警察官に述べているのであり、また、その後も、寝かせた際の状況やその後の経緯に関する主張や供述は、前示のとおり、一貫性に欠け愛也加の異常を認めた際の事実についても、原審におけるそれと当審おけるそれとは異なった主張をするに至っているのであり、また、このような主張や供述の変遷が生じたことについても合理性があるとする事由は認められない。したがって、本件異常発見時に愛也加が左頬を下にする状況にあったとはたやすく認め難く、また、愛也加が使用していた本件マットは、愛也加の姉が3年ほど使用したもので、新品当時に比べると柔らかくなっていたというのであり(原審における控訴人保育士)、本件マットと同種類のマットについて、過重によっては沈み込む状況が認められ(原審検証)、加えて、後記のとおり、愛也加には窒息を認める解剖所見が認められること等を合わせて考えると、愛也加は、控訴人保育士によってうつぶせの体勢で寝かされ、その後、フェイスダウンの状態となり、窒息死したと認めるのが相当である。

オ 以上のとおりであるから、控訴人保育士は、愛也加をうつぶせに寝かせ、その際、愛也加は首を持ち上げる等していたが、その後、フェイスダウンの状態となり、死亡するに至ったと認めるのが相当である。

2 愛也加の死因について

控訴人らは、愛也加の死因は、SIDSによるものであると主張するのに対し、被控訴人らは、窒息死であると主張する。

(1)証拠(甲21、28)によれば、SIDSは、「それまでの健康状態及び既往歴からその死が予想できず、しかも死亡状況及び剖検によってもその原因が負傷である乳幼児に突然の死をもたらした症候群」であり、また、証拠(甲18、21、28、原審証人G教授)によれば、窒息死と突然死(SIDSも突然死である。)の解剖所見には、共通するものが多く、解剖所見のみから、両者を鑑別することは困難であること、また、鼻口部閉塞による窒息死の場合および乳幼児の窒息死の場合は、眼瞼結膜の溢血点などの窒息死によく見られるとされる所見が認められないことも多いことが指摘されており、結局、解剖所見のみならず、死亡時(異常発見時)の状況、特に乳児の場合は、その体勢(特にうつぶせ寝か否か)や寝具の状況等も考慮した上、窒息死であるか否かを検討するのが相当である。

(2)そこで、愛也加の解剖所見や上記認定の愛也加の死亡状況その他の事情を考慮して、愛也加の死因が窒息死であるか否かについて検討する。

ア 愛也加の解剖所見

(ア)身長、体重、その他(省略)

(イ)外表所見 (省略)

(ウ)内景所見 (省略)

(エ)愛也加の死亡推定時間

イ 承諾解剖報告書、F教授から送付された組織標本、写真、組織標本ブロックを基に組織検査をした上で作成されたG(教授)意見書(甲28)及び原審証人G教授によると、次の事実が認められる

(ア)愛也加の外表所見 (省略)

(イ)愛也加の内景所見 (省略)

(ウ)窒息死の所見 (省略)

(エ)本件の場合 (省略)

ウ 証拠(甲27、44、原審証人G教授) (省略)

(3)この点、F教授及びN(教授)意見書は、愛也加の死因は、SIDSの可能性が大であるとする。

ア F教授 (省略)

イ H(教授)意見書 (省略)

(4)以上によれば、愛也加の死因は、窒息死と認めるのが相当であり、控訴人らの主張は、理由がない。

3 控訴人保育士の過失について

前記認定事実及び証拠(乙13、原審における控訴人保育士)によれば、控訴人保育士は、昭和52年4月から本件保育園の保母として勤務してきた知識経験を有する、保育の専門家であり、乳幼児をうつぶせ寝にすることについての窒息死の危険性を認識していたこと、控訴人保育士は、入園後、愛也加の機嫌が良いとき、うつぶせの体勢にして約1分くらい遊ばせたことがあるが、その際は愛也加から目を離さなかったこと、本件当日は、被控訴人裕二から、愛也加を引きとったが、その直後から、愛也加が大泣きを始め、控訴人保育士が抱いた後も、泣きやまなかったので、機嫌が少しでも良くならないかと思って、ベッドにうつぶせの体勢で寝かせたが、愛也加は、まだぐずり泣きをしていたこと、控訴人保育士は、愛也加をベッドに寝かせた後は、保育室の廊下側の位置で他の園児の給食の世話をしたり、配膳室に出入りいており、Cから、愛也加の状態が異常であるとの連絡を受けて、初めて愛也加の異常に気付いたことが認められる。

上記事実によると、控訴人保育士は、乳幼児をうつぶせの体勢で寝かせるとことについて、窒息死にいたる危険性のあることを認識しており、愛也加の機嫌が良い場合でも、うつぶせの体勢で遊ばせた際には、愛也加から目を離さなかったというのであり、本件の当時、愛也加は、まだ4ヶ月の乳幼児であり、被控訴人裕二が保母に引き渡した直後から激しく泣き続けていたのであるから、愛也加の機嫌が良い状態にあったとは認め難く、そうすると、うつぶせの体勢で寝かせるに当たっては、愛也加の状況を十分に監視するなどして、愛也加が窒息等により生命に危険のある状態に陥らないように、うつぶせの体勢にした愛也加の動静を注視する義務があるというべきである。然るに、本件においては、控訴人保育士は、ベッドに愛也加をうつぶせの態勢に寝かせた後は、保育室の廊下の廊下側の位置で他の園児の給食の世話をしたりして、配膳室に出入りしており、愛也加の顔面や寝ている状況等を確認したとする経緯はうかがえないところである。

また、前記認定事実によれば、控訴人保育士は、ベッドに愛也加をうつぶせ寝の体勢に寝かせた後は、保育室の廊下側の位置で他の園児の給食の世話をしたり、配膳室に出入りしており、愛也加の顔面の状況が確認できない位置にいたのであり、愛也加が窒息しないようにその動静を確認することはできなかったことが認められる。上記のとおりであるから、控訴人保育士は、愛也加をベッドに寝かせて保育室を出て以降、愛也加の動静を常に注視していたと認めることはできず、愛也加は、前記認定のとおり、うつぶせの体勢で寝かせられた後、フェイスダウンの状態となって窒息死するに至ったのであるから、控訴人保育士には、うつぶせの体勢にした愛也加の動静を十分注視しなかった過失があることが認められ、他に、控訴人保育士が注意義務を尽くしたと認めるべき事情は存しない。なお、控訴人保育士は、愛也加の動静をその都度確認していた旨供述及び陳述するが、かかる供述等については、たやすく信を措きがたいことは前記説示のとおりである。

4 損害額について

原判決の「事実及び理由」、「第3 争点に対する判断」の4に記載のとおりであるから、これを引用する。

第4 結論

よって、被控訴人らの請求を一部認容した原判決の認定判断は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

福岡高等裁判所第4民事部

裁判長裁判官

裁判官

裁判官

以上が高裁判決です。

省略が多いのですが、F教授による承諾解剖報告書、G教授の再鑑定意見書の外表所見・内景所見には、窒息死を示唆する多くの所見が存しています。

愛也加の親として、そこまでを記すのは忍びなく、本当に申し訳ございませんが、ご了承ください。

(一部省略、保育士の氏名につきましては実名を伏せて掲載しております)



【福岡高等裁判所判決-勝訴確定のお知らせ】

長崎県佐世保市・社会福祉法人・光の子福祉会、光の子保育園と保育士の控訴は、福岡高等裁判所の判決においても棄却され、福岡地裁につづき、再び、「愛也加-勝訴」の判決が言い渡されました。

そして平成18年6月8日、保育園側が上告を断念し、愛也加の勝訴が確定いたしました。

以上、皆様へ最後のお知らせを申し上げます。



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